<『マックスマーラ』関連記事はこちら!>
【WHO WORE BEST=2023/3/8】『マックスマーラ』は、2023年3月23日にミラノファッションウィークにて2023年秋冬コレクションを発表しました。
『マックスマーラ』2023年秋冬コレクションを発表
現代性を追求している『マックスマーラ』は時間をさかのぼり、嵐のような波乱に満ちた18世紀に至った。真実も虚偽も混じったニュースやアイデアを瞬く間に広めるという、現代ではチャットボットが果たしている役割をコーヒーハウスが担っていた時代。昔の人も現代人と同じく、世界を理解しようと努め、誰もが意見を持っていたのだ。
エミリー・デュ・シャトレ侯爵夫人は自由な精神を基調とする多くの優れた著作により、啓蒙時代と呼ばれる18世紀の合理的な思考に多大な影響を与えた。彼女は外科医のメスのように鋭いウィットを交えながら、女性の教育や社会的役割、来世、人間の幸福といった、同時代人の関心事を考察しました。「幸福になるためには、偏見を捨てねばなりません」との言葉を残している。
エミリーには愛人がいた。独自の思考スタイルを確立し、「近代欧州における本当の意味でのセレブリティ第一号」と目されているヴォルテールだ。神秘に対する驚嘆を交えつつ哲学と自然科学が不可分のものとして扱われていた時代、エミリーとヴォルテールは科学実験や知的な論議に明け暮れる10年間を共に過ごした。女性が軽んじられていた時代ですから、エミリーは自分の主張を聞いてもらうためには”大声をあげる”必要があった。彼女はこうした男尊女卑を次のように皮肉っている。「私たち女性を学問から締め出す男性による不公正には、少なくとも一つの利点があります。おかげで、女性はくだらない本を執筆する愚行を免れています」
理性を重んじる啓蒙時代のファッションは、ボリュームたっぷりのドレープ、羽根飾り、馬の尻尾の毛を織り込んで膨らませたペチコート、クジラの骨を使ったコルセット、真っ白なおしろい、塔のようにそびえる鬘といった、非理性的な時代の痕跡を残していた。ヴォルテールは、エミリーは迷信と黒魔術を嫌っていた、と述べている。エミリーは当時の複雑で制約が多いスタイルを拒絶し、現代に通じるワードローブへと舵を切った知的な女性であった、と『マックスマーラ』は考える。
リッチなブロケードのファブリック、パニエ、ビュスティエ、シュミーズは、ニュートン物理学のように緻密な計算に基づいて構築され、ミニマリストのタートルネックやチャンキーヒールブーツとの組み合わせで提案される。膝上丈もしくはくるぶし丈のパニエスカートには、時代的にちぐはぐなドローストリングやスポーティーなポケットがあしらわれている。未来からやってきたキャメルカラーのフィッシュテールパーカはリバーシブルで、豪華なダマスク柄を表にして楽しむこともできる。18世紀の宮廷人の後ろ姿を特徴づける、プリーツを畳んだヴァトー・バック(Watteau back)は、厚手のミリタリー調ロングコートやシンプルで小粋なカクテルドレスに応用された。
エミリーはしばしば男装を楽しんだ。女人禁制だったコーヒーハウスに出入りし、当時の優れた知識人と交流するためだ。『マックスマーラ』は彼女が扮したかもしれない一連の男性像――ソフトなオーバーコートを翻して闊歩する平服のジェントルマン、髪を黒いリボンで束ねた身ぎれいな公証人、ケープやコートを片方の肩に颯爽と羽織った粋な士官、流行りの大きなマントをまとった尊大な公爵――にインスピレーションを求めた。
ヴォルテールの詩を読むと、彼のエミリーに対する愛情は知的な交流のレベルにとどまっていなかったことが分かるが、彼はこの恋人のことを「女性に生まれたことが唯一の誤りであった偉大な人物」と評している。約300年後の現代において、エミリーのジェンダーはもはや、その才能と不釣り合いなものとは見なされていない。彼女は、ウィットと知性によってこうした変化を引き起こした多くの女性の一人だった。『マックスマーラ』は、理性と秩序をミックスしロマンスのスパイスを効かせた本コレクションを通じて、エミリー・デュ・シャトレ夫人と彼女のような女性たち――キャメロクラシー――を称える。